女バス宣言!

稲嶺恭子

 

路線バスが好きだ。

ゴトゴトと無骨で温かいあの揺れ。
威風堂々としたカーブでの表情。
しわしわの煙草を燻らせている職人のような、バス停での停車っぷりの粋。
そう、バスは日本男児がなくした
「男前」をきっちり持つ、女が惚れ込める最後のマシンなのだ!

10数年前、始めて沖縄の路線バスに乗ったのは、那覇から新原ビーチまでの道程。約1時間半だったと思う。ペーパードライバーの私が海へ行くには、それしか方法がなかったのだ。
死ぬほど熱い太陽に照らされた、コンクリート造りの南国のバスターミナルには、見たこともないような地名行きのバスがたくさん停車していて、アジアのバスターミナルを彷彿とさせる雑多ぶりだった。ただ、人が少ないことをのぞいては。暑いからね…。

「海に行くのに何でぇー」
 と不安なるぐらいの、深い緑の生い茂る山道を抜け、誰もいないさびれた停車場を横目に疾走するバスが連れて行ってくれたのは、真っ青で静かな海が民家の路地の向こうに見える、古びたベンチがひとつだけおかれた小さな小さなバス停だった。
時間どおりに来ないバスに置いていかれることはザラ。ひなびた停車場のバス本数は少ないから、結局大通りまで1時間かけて歩くこともしばしば。日よけのないバス停で長時間待機中に鼻血を出したことだってある。ドライブより時間がかかり不便だし、もしかしたらお金もかかるかもしれない。でも、それが旅なのだ。決して、私がペーパードライバーだからでも、小金を持っているアラフォー女子だからでもない。

 どんなに不安でも、どんなに時間がかかっても、バスは私をどこかへ連れ去ってくれる。バスの車窓を見つめていると、幼いころの夏休みを思い出す。そして、何だか色んなことが、ど~でもよくなってくるから不思議。
「まぁ、いいか。明日考えよー」って思える時間は、なにものにも代えがたい。バタバタした日常が異常に感じられるようになれば、もうあなたはバス名人だ。「旅」という言葉の持つ、不思議な魔力が、バスの旅にはきっちりと詰め込まれている。

 誰かに守られなくなって久しい、強い女子にこそ捧ぐ! 男前なバスに身を任せて、本当のスローな旅を満喫しよう。「旅」はまだまだ捨てたものじゃない!!