女バス 第一便 日本最南端のバス停を目指して
その1 バスに乗るまでが、たいへんなのだ。
「浮かれすぎて、忘れてた…」
西表島にある日本最南端の路線バスに乗り、日本最南端のバス停を目指す!
この、なんともゴージャスな、この連載の第1回のスペシャル企画(といっても、私が勝手に企画したわけですが…)に浮かれまくり、一番大事なことを忘れていた…。そして、今回の旅は、ここから全てが始まるのである。
「あぁ、もう死ぬかもしれない」
この言葉が100回は頭をよぎるぐらいに、縦横無尽に揺れまくる、いや海に叩きつけまくられる小さな船に乗り、私は大後悔を通り越し、恐怖すら感じていた。
西表島には港が2カ所(厳密に言うと3カ所)ある。ひとつは大原港。こちらはイノーと呼ばれるサンゴ礁内のルートを走るためとても穏やかな船旅が楽しめるのだが、もうひとつの上原港がクセモノなのだ。外海を切り抜けていくという、なかなかハードな航路を行くので凪の日も揺れは必至。冬になると完全に港は閉ざされ、「船が出ている日のほうが珍しいぐらいよー」と地元の人がいうほどの難関船。沖縄の外海は、本気の海! なので、かなり波が高く、何度もこの船に乗り玉砕してきたのだが…。
今回は、島の東北部にある上原のバス停から、最南端のバス停へ南下しちゃおう~、ヤッホー!。という気持ちが盛り上がりすぎて、すっかり忘れていたのだ、そんなこと。私の、バカバカバカ!!
こうして、死の1時間が始まった。私が乗った後からは船が欠航という、大荒れの天候下で上原を目指した船は、マジで玩具のように揺れまくる。例えるなら、バカな大怪獣が海に何度も船の玩具を放り投げている感じで、まず一度も船が平行になる瞬間がない。よくひっくりかえらんものだと感心するぐらい。波に打ちつけられるたびに「ガン」「ドン」という鈍い音が響き、体に直でやばい振動を繰り返し受けまくる。運転席のおじちゃん達の舵取りも、かなり激しさを増し、これは確実に「遭難」一歩前…。この船も欠航にしとけよな…。
一瞬たりとも気を抜けない大揺れの船の中はパニック寸前で、慣れっこのはずの島のおじちゃんでさえ「うぉー…」とか「ふぉー」とか声をあげている。前に座っている観光客の女性はもうすでに泣いていたり、「お父さんが島に行きたいって言うからよっっ!」などという怒声とともに夫婦喧嘩も始まる始末。本当にやばい雰囲気。
「私、ただバスに乗りたかっただけなのです。神様お願い、無事に島へ着けてください」
と、しょっちゅうやってる神頼みをしながら、波なのか島影なのかもわからない、ぐちゃぐちゃの窓の外を見つめる私。そう、ただバスに乗りたいだけなのよー! 罰があたるような不倫旅行でもしているならまだしも、バスに乗るだけなのにーーーー!
「なんだよ、バスの話じゃないのかよ!」と言うなかれ。この困難あってこその、バスの旅。ここまでしても、女バスはバスを目指すのです。まさに命がけ! あの恐怖は、描ききれないのでこの辺で…。港が見えてきた時は拍手がおこりましたからね、船内。
席から投げ出されないように踏ん張っていたため、ぐったりと疲れて船を下りるとすぐ先はバス停。なのに、足がまず動かない。腰が抜けた感じ。私は、決して乗り物に弱いわけではない。言うなれば、この状況下でもゲロしなかったのは、私と島のおじちゃんぐらいでしたから。でも、まぁ玉砕だな。しばし、港で水を飲みながら売店のおばちゃんにバスの情報を聞くところ、あと30分ほどでバスがやって来るというので、ようやく待望の出発地点、上原のバス停へGO!
その2へ続く